メタバースが大きな注目を浴びた2021年。その動きを振り返るとともに、2022年の展望をまとめました。
武者良太
1971年生まれ。1989年よりパソコン雑誌、ゲーム雑誌でライター活動を開始。現在はIT、AI、VR、デジタルガジェットの記事執筆が中心。元Kotaku Japan編集長。Facebook「WEBライター」グループ主宰。
2021年10月末。Facebookが社名をメタバースから取った「Meta」に変えると発表して以来、"メタバース"の言葉をあちこちで見かけるようになりました。「流行語大賞狙えるかも?」という声が上がるくらい、多くの人々がメタバースの話題を取り上げるようになりました。
そもそもメタバースとは何でしょうか。「NFTを用いて仮想空間内の土地やアイテムを売買できるサービスだ」という人もいれば、「あつまれ どうぶつの森のようなゲームがメタバース」という人もいます。言葉そのものは古くからあるものの、漠然としており確固とした定義はまだありません。それでも様々な意見を総合すると、広義では「アバターを用いて会話ができる、インターネット上の3Dなバーチャル空間」を指す言葉と捉えてよいでしょう。ゆえにNFTゲームもあつまれ どうぶつの森もメタバースの1つだと言えます。他にもユーザーコミュニケーションに主体をおいたclusterやVRChatもメタバースです。
これらのメタバースは2020年初頭より世界を覆ったコロナ禍により、大いに注目されることとなりました。フォートナイトやRobloxで開催された音楽ライブは、ゲーム内におけるゲーム以外のコンテンツが人々の注目とアクセスを集めることを証明。ステイホーム/ロックダウン期間であってもメタバース内であればどこにでも行けるし、友達とも集まれることを僕らは知りました。また2021年3月16日~20日に開催された世界的なテクノロジー&カルチャーフェスSXSW2021や、2021年9月1日~11日開催のヴェネツィア国際映画祭VRエクスパンデッドはVRChatを用いて、以前まで現地に赴いていた世界中のアーティスト・ジャーナリストとメタバースに生きるVRChatユーザーとの邂逅の場となり、新たなカルチャーが誕生しました。
エンターテインメントの現場だけではありません。バルバドス共和国はDecentralandに大使館を設置する計画を進めており、ナイキはRoblox内にショールーム&プレイエリアのNikelandを開設。日本においても、学校法人角川ドワンゴ学園が設立したN高等学校・S高等学校はバーチャルライブ入学式をcluster上で開催し、日産自動車は東京・銀座にあるショールームNISSAN CROSSINGを再現したバーチャルショールームをVRChatでオープンするなど、メタバースを活用する事例が増えてきています。
Zoomなどのオンラインミーティングツールは上意下達なミーティングやセミナーには適していますが、メタバースは1人1人のアバターが独立しているため、多人数で集まっていたとしても個別に話がしやすいという大きな利点があります。
またバーチャル空間は現実空間と比較して広さや重力など、物理的な要素を切り離せるという利点もあります。B2B向けのバーチャルプラットフォーム向けサービスを活用した事例となりますが、東京工業大学のキャンパス、研究室、会議室、イベントホールを再現したバーチャルキャンパスや、国土交通省 国土技術政策総合研究所のVR国総研は広い敷地を生かした見学・散策や、研究結果のコンテンツを自由に見ることが可能で、広報効果が高いといわれています。大型機材やグローバルな部品メーカーが、世界中の顧客とコミュニケーションするためのメタバースショールームの開発に取り組んでいるという話も聞いています。
ビジネス視点においてもメタバースの価値が高まりつつある現在ですが、メタバース内での行動・活動が収益に結びつくケースはありうるでしょうか。
厳密にはメタバース内での行動ではないのですが、メタバース内のデータを作成して販売するという手段があります。ワールドや有料アイテムを作成することで収益に結びつくRobloxなどのサービス限定か、一部のメタバースで使用するアバター類を販売できるBoothのようなサービスを使うことになります。
歌手、DJ、ダンサーといったパフォーマーを目指してフォロワーを増やし続けるというのも、収益化の1つの道として考えられます。現実空間でいうならば、ストリートパフォーマーとして存在感を高めていき、報酬のあるイベントに呼ばれるのを待つというルートですね。
これらは、あらかじめ高い技術力を持っていてこその方法論となります。また個人で自分の価値を高めていくフリーランサーとしての能力も必要となるでしょう。
こうした特別な才能のあるクリエイター以外の方でも、メタバースで働けるような業務は発生するでしょうか。
可能性となりうるのが、企業主催のバーチャルイベントです。2021年10月16日~31日まで開催された「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス 2021」にメタジョブ!がスタッフを派遣し、メタバース内での案内・誘導を務めたことで、メタバースサービスに不慣れな人でも安心してイベントに参加できたと聞きます。日産自動車のバーチャルショールーム発表会時について広報の方とお話をした際も、「イベント開催時、自社内でスタッフを用意するのが難しい。VRの世界のことに明るくて、VR機材の操作にも慣れている人に現場スタッフとして外注したい」と言っていました。オンラインによるイベント、それもメタバースでのイベントは接客要素も大事ということですね。
各サービスの使い方を熟知してスムースに解説し、デバイスによって見え方が違う・体験が違うことを理解して案内できるスタッフを雇えば、来場者の満足度が高まりポジティブな印象を持ってくれるでしょう。しかも自宅からアバターの姿で業務に取り組めるのだから、住んでいる地域や老若男女を問わずにスタッフを集められるというメリットもあります。そしていち早く、アバタースタッフの指揮やモチベーションを高める技術という学びもあるはず。
これは企業がメタバースでのビジネスを考えていく際の重要な知見ともなるでしょう。ショールームのようなワールドを作る際にも、メタバースに慣れ親しんでいるユーザーとのコミュニケーションを増やせますし、外部スタッフの一般公募は勧めたいところです。